2004年8月26日木曜日

「消費者負担型の農政こそが諸悪の根元だ」(山下一仁)



今朝の日経の経済教室「直接支払いで農業改革」はお奨め。元農水省ガット室長で現在 経済産業研究所上席研究員の山下一仁氏が書かれている。日本の農業が抱える諸問題をこれだけ簡潔に言い表した論文は少ない。こういうまともな意見がなかな か現実の政策に反映されないのは、既得権者の抵抗のためだ。消費者は抵抗勢力が喧伝する「自然に優しい」とかの屁理屈に惑わされてはならない。

論点を整理すると以下の通り:
  1. 日本は国内価格を高くする消費者負担型の農業政策から転換し、負担と受益の関係が明確な直接支払い政策を導入し中核農家の規模拡大を急ぐべきである。
  2. WTO交渉で農産物関税の引き下げが不可避になるまで改革を先送りしていては農業が衰亡してしまう。
  3. さらに農業保護のために国内価格を高くする消費者負担型の政策は、非効率で(諸費用が差し引かれるので)農家所得の向上にはそれほど貢献せず、過剰生産を招き、肥料・農薬の多投入で環境に悪影響を与える。
  4. 国内市場で輸入品と競争できないものは海外市場でも競争できない。国内市場を守りながら輸出市場を開拓することは不可能だ。
  5. 日本が消費者負担型農政となったのは1960年代以降、農家所得向上のために、構造改革ではなく、米価引き上げを実施したからだ。そのため過剰と なった米の生産調整を実施などで、食料自給率は79%(60年)から40%(2002年)に減少。農家一戸当たりの平均耕地面積はほとんど増加しなかっ た。
  6. 兼業化が進み副業米単作農家の所得(02年792万円)は勤労者所得(646万円)を大きく上回ることになったが、食料供給の主体である主業農家は育たなかった。
  7. 構造改革を推進したフランスでは、自給率は99%(61年)から132%(2000年)へ、農場規模は17ヘクタール(60年)から42ヘクタール(2000年)に拡大し、穀物価格は国際相場を下回っている。
  8. 日本で農場の規模拡大が進まなかったのは、買い上げ米価は高いためだ。コストの高い農家でも農地を貸し出すより米を自作する方が得になるから、農 地は貸し出されず規模拡大が進まなかった。60キロ当たり16000円の米価が1800円低下させるだけで、副業農家からの農地貸し出しが始まる計算にな る。
  9. 関税全廃した場合でも、農家の所得保障の所要額は1.7兆円。現行の農業予算(約3兆円)内でまかなえる。
  10. 高米価政策で、米作農家は豊かになったが、農業は衰退した。このままでは日本の農業は内から崩壊する。

抵 抗勢力とは、言わずもがな、戦後の農地解放で既得権を勝ち取った農村である。改革に反対する農村の人達は、戦後の農地改革は誰のおかげで実現されたのか を、思い起こすべきだ。「革新官僚」(当時はアカといわれた)の改革のおかげだったではないか。改革の最大の受益者が今や改革に反対する最大の保守抵抗勢 力となっている。都市の消費者も、そろそろ自分がボラれていることに気づいて、ぜひこの「改革」(正常化といった方がいい)を応援しよう。


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Posted: Thu - August 26, 2004 at 02:53 PM   Letter from Yochomachi   農業問題  Previous   Next   Comments  

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